「世界の朝食」紹介し続け30年
世界各国で愛されている朝食を紹介するヤマザキ「世界の朝食」は、食の雑誌『dancyu』で30年近くもの間、連載をしてきました。過去の記事は現在、ヤマザキッチンにも掲載され、人気を集めています。
1994年4月からスタートした連載は、2022年11月で通算344回。登場した国と地域は109にものぼります。長い歴史のなかではユニークなレシピや、日本とは違うパン文化に触れたことも。そこで今回は、「世界の朝食」の歴代担当者に、企画背景や忘れられない絶品メニューなどを語ってもらいました。
ヤマザキ「世界の朝食」ができるまで
創刊まもない『dancyu』は、当時の料理雑誌としては革新的でした。それを見た初代担当者が、この雑誌となら面白いことが出来そうだと思ったところから、「世界の朝食」がスタートしました。当時はまだインターネットも普及していなかった時代。「世界にはどんな朝食があるのか、パンはどうやって食べられているのか」。そんな疑問がこの企画の発端でした。
紹介する国は、『dancyu』の特集やテーマに合わせて選ばれていて、ページ上段では現地の朝食を、下段では日本のご家庭でも作りやすいパンをアレンジしたレシピを紹介しています。
例えば『夏のつまみと酒』特集ではビールで有名なチェコ共和国を、『アジア麺』の特集ではシンガポールが選ばれています。
ちなみにこれまでの登場回数トップ3はこちら。
1位 アメリカ 20回
2位 フランス 15回
3位 イタリア 14回
お馴染みの国が並ぶ一方で、マルタ共和国やトリニダード・トバゴ共和国など、日本ではあまり知られていない国を紹介することもあります。
毎回、各国の大使館関係者、現地出身の方や現地に住んでいた料理研究家、現地料理のレストランのシェフなど、さまざまな方に取材し、誌面をつくりあげています。
ときには料理やレシピを教えてくれる方を探すのに苦労したことも。取材では、文化の違いに驚くこともありました。例えば、中南米の料理を取材するため、先生のお宅に伺ったときは『まずは踊らないと、取材には応じられません』と言われて、スタッフみんなで20分くらい踊り続けたこともありました。
こんなに違う!
世界と日本のパン文化
「食文化の違いで印象に残っているのは、トリニダード・トバゴ出身の先生です。『なぜ日本人はピーマンのおいしさが詰まっている種を捨ててしまうの?』と言われて、びっくりしたのを覚えています」
また、パン食文化も海外と日本では異なります。
「海外では日本のようにスーパーでパンを買うよりも、地元のパン屋さんでその日に食べる分を買うことが多いようです。ヨーロッパの田舎では、玄関にパン袋が下がっていて、日本の牛乳屋さんのように、パン屋さんがそこにパンを入れてくれる地域もあるそうです。買い物の仕方が日本とは全然違うんですね」
逆に日本の食文化を驚かれることもあります。なかでも多いのが「日本のパンはなぜこんなに柔らかいの?」という質問です。
「海外のパンは、数日経つと固くなってしまうのが普通で、日持ちの良さをあまり重視していないようなんですね。だから固くなってしまったパンをおいしく食べる知恵が詰まったレシピもとても多いんです」
例えば、スペインの「ミガス」は、パンのチャーハンのようなもの。水に戻して細かく切ったパンをニンニクや豚の脂身、玉ねぎなどと炒め合わせます。
「パンを食材に使うレシピは多いのですが、炒めるなんて!とびっくりしました。だけど食べてみると色々な旨味をパンが吸収して、旨味の塊みたいになるんです。とてもおいしくて、家でも何度か作りました」
また、現地と同じ食材を揃えるのは難しいため、日本の家庭で作れるようにアレンジしたレシピを紹介しています。
「できるだけ簡単にしたいけれど、ただアレンジしただけでは、それぞれの国の良さがなくなってしまいます。現地の味を感じられるものにするには、どうアレンジしたらいいのかが毎回とても難しいところです」
例えば、東京・南青山にあるリストランテ・アクアパッツァの日髙良実シェフに、「トラメッツィーノ」というイタリアのサンドイッチを作ってもらったときのことです。
「私が現地で食べたトラメッツィーノは、ツナマヨネーズサンドイッチのようなものでした。だからマヨネーズは外せないと思っていたんです。ところが日髙シェフは、マヨネーズは入れなくていいけれど、黒オリーブはほしいと言うんですね。現地の味を再現するためには、マヨネーズよりも黒オリーブが重要だったんです。その国のメニューを構成するにあたり本当に重要な食材や手順は何か。この感覚は現地に住んでいた方でないと難しいなと思っています」
自宅で簡単に作れる世界のレシピをご紹介!
ヤマザキ「世界の朝食」では、これまでに185のレシピを紹介してきました。その中から、現在の担当者がご家庭でも挑戦しやすい3つのレシピをピックアップしました。
1つ目はイギリスから「ブレッド&バター・プディング」。 「こちらも固くなったパンを美味しく食べるためのレシピです。バターをたっぷりと使った、とてもリッチな味わいのスイーツです」
2つ目は韓国から、卵とベーコン、スライスチーズを挟んだサンドイッチ「エッグ・トストゥ」。
「練乳とマヨネーズを1 : 1で混ぜ合わせたソースをかけるのですが、これが海外感たっぷりの味でおいしいんです」
3つ目はカナダから「メープルハム・サンドイッチ」をご紹介。
「日本でもおなじみのハムレタスサンドイッチですが、味付けにメープルシロップを使っていて、甘じょっぱさがクセになるおいしさです」
どれも手軽にできて、異国情緒を感じられるメニューなので、ぜひ挑戦してみてください。
ちなみに30年近く続いてきたヤマザキ「世界の朝食」ですが、これまでも、これからもネタが尽きることはないと言います。
「パンは世界中で食べられています。例えば同じアメリカでも、西と東では食文化が全然違いますし、同じ料理でも時代とともに変化する。パンって本当に多彩なので、ネタに困ることはないんです」
そしてヤマザキ「世界の朝食」では、これからも世界中の朝食をみなさんにお届けしていきます。これからも自宅で海外のパン食文化をチェックしてみてください。