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地中海の中ほど、青く澄んだアドリア海の東に隠れた美食の国がある。九州の1.5倍ほどの面積ながら長い海岸線と豊かな丘陵、そして四季に恵まれた食材の宝庫・クロアチア。その地理と歴史からイタリア、ハンガリー、ギリシャ、トルコなどの影響が混じり合い、多彩で独自の食文化を育んできた。

そんなこの国で、食いしん坊がひときわ楽しみにする季節が秋。海からは旬の魚や海老、貝類の数々、野山からはオリーブや栗、葡萄などの果実や色とりどりの野菜が市場に並ぶ。なかでも垂涎の的は、きのこ。知名度の点では近隣国に及ばないが、トリュフやポルチーニ茸など西洋きのこの名産地なのだ。

スープやパスタ、卵料理。この時季には、さまざまな料理が森の香りを纏（まと）う。首都ザグレブを中心に名物として知られる「シュトゥルクリ」もその一つ。小麦生地にフレッシュチーズなどを包み、ゆでたり焼いたりするパスタの一種。包む食材やソースで食事にもデザートにも変化するが、きのこと味わう秋はご馳走感が強くなる。皿に残ったトリュフやポルチーニ茸のソースをパンで拭い、余韻を楽しむことも忘れない。パンはクロアチアの食卓に欠かせないもの。シンプルな食事パンはもちろん、オリーブやパプリカを練り込んだパン、パイ生地を使ったパンなど種類も豊富。この国の美味の土台なのだ。

さて、クロアチアの朝。内陸部と沿岸部、地域ごとに伝統的な朝食はさまざまだが、素直に羨ましく思うのが北イタリアに近いイストラ半島の朝食。春には野生のアスパラガス、秋にはトリュフのオムレツをパンと一緒に味わうのだとか。美しい海と中世の面影が残る街々、神秘的な森と湖……。真珠にも喩えられる風光明媚な小国に、季節の恵みをパンと楽しむ幸せがある。