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アラビア海に臨む西海岸の中央。奈良県ほどの小さな州に、ほかにはないインドがある。かつてポルトガル海上帝国の首府として“黄金のゴア”と呼ばれた地。世界遺産にも登録されたキリスト教建築が残る街並みに、アジア有数のビーチリゾートとなった現在の開放感が重なる。インド国民でさえ、ゴアは違う文化圏だと言う。

独特で洗練された食文化も有名だ。代表料理は日本でも人気の「ビンダルー」。鶏肉や羊肉、インドでは珍しい豚肉、海老や野菜などをビネガーとにんにくでマリネすることから生まれる酸味とコク、スパイスの芳香、唐辛子の鮮烈な辛さが印象的なゴア風カレー。ルーツはポルトガルのワイン煮込みにあり、海を越え、この地でスパイスと出会うことで進化を遂げた。

ロティやパラタなど多彩なインドのパンと相性がいいが、お薦めは全粒粉の生地にスパイスやハーブを練り込んで揚げた「マサラプーリー」。一緒に食べれば互いの風味を引き立て合い、美味がさらに花開く。

「スパイスは私たちの文化そのもの。スパイスがないと満足できないの」と現地の女性。それは“インドで一番西洋パンが好き”とも評されるゴアの人々の記憶に深く刻まれていて、たとえば食パンを使ったサンドイッチやチーズトーストにも珠玉のスパイス使いが光る。ここにもヨーロッパ由来の食文化を吸収することで進化を遂げた、ゴアだけの味がある。

さて、そんなゴアの朝。各地区に一軒はベーカリーがあり、焼き上がったパンを籠に詰めて自転車で運ぶ配達人の姿も見える。市場や駅の食堂ではカレーとパンの定食を食べる人々、教会や修道院近くのカフェではパンとお茶の朝食を楽しむ人々……。それは住民たちにとって宝物のような日常風景、愛するゴアに違いない。