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世界で最初の農耕が始まったとされる古代オリエント・肥沃な三日月地帯の一角──。パレスチナには世代を超え、世紀を超えて愛され続けるパン料理がある。アラブ風ピザとも呼ばれる「マナイーシ」。具はチーズや挽き肉などさまざまだが、定番は中東のミックススパイス“ザアタル”をのせて焼いたもの。オリーブオイルがしみた生地はコク深く、噛むほどにタイムやオレガノ、胡麻などが織りなすエキゾチックな風味が口中に広がる。

このマナイーシ、パレスチナ人にとっては朝食のパン。毎朝、女性たちが地域の共用オーブンで家族の食べる分を焼くという伝統的な風習もある。現代では失われつつある光景だが、伝え継がれた記憶はすでにマナイーシの味の一部。「朝の光の中で育む家族や地域の人々との交流。そんな情景とともにあるパンなの」と、ある婦人は言う。

人との集いに欠かせないパンでもある。そもそも大勢での食事が好きなパレスチナの人々。祝祭日や節目の日はもちろん、機会あるごとに親族や友人同士で誘い合い、祝宴がスタートする。食卓にはマナイーシやピタパン、名産の乳製品やオリーブ、旬の野菜、肉料理……。ご馳走を用意し、老若男女、大いに食べてたくさん笑う。

ホストも客も入り交じり、調理から楽しむことも多い。そんな時は子供もお手伝い。「走り回るばかり」と大人は苦笑するけれど、彼らはちゃんと学んでいる。喜びを分かち合い、みんなで生きるパレスチナの文化を。

さて、そんなパレスチナの朝。現在はパンを買う家庭も増え、早朝からパン屋に向かう人もちらほら。急いでいても知り合いを見つけては立ち止まり、お喋りするのがこの地の人々。そして、必ず掛け合う言葉は「気をつけて。神のご加護を」。朝日に輝く地中海やオリーブ畑の美しさを背景に、その言葉はしみじみ心に響くのだ。