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やさしい甘味が日々の疲れを癒すようだ。一口含むと数種の野菜の個性豊かな滋味が溶け合い、食べ進めればスープに浮かべたパンが崩れ、ひとさじごとに風味やコクを深めていく。高級店で味わうような贅沢な美味ではないが、肩肘張らず、食べ飽きしないおいしさがある。

フランス家庭料理の定番「ポタージュ・キュルティヴァトゥール」。たいていのフランス人にとって“野菜があればできる”手軽なこのスープ、ブイヨンも使わず、調味料はバター、塩、胡椒のみ。けれど必要最小限の工程の中に、野菜の大きさを切り揃えて火の通りを均一にしたり、じっくり炒めて甘味を引き出すなどフレンチの基本が詰まっている。まさにフランス流ミニマルレシピだ。

そもそもミニマルレシピが日常的に根づいているのがフランス家庭料理。平日なら特に、肉や魚、野菜をさっと焼いたり蒸すなど、手間をかけない料理が多い。時間がないのはもちろんだが、もっと大きな理由がある。「素材そのものの味を楽しみたいという気持ちが強いの。それにはシンプルな調理が一番」と、あるマダムは言う。

そんな彼らの食卓に欠かせないのがパン。前菜からメイン、食後のチーズまで。料理に添えたり、具をのせたり……。見た目も味も、パンがあるだけでシンプルな一皿がぐっと豊かに彩られる。そして何より大切なのは、家族や仲間と紡ぐ楽しい会話。キッチンで生まれ、食卓で完成するのが、美食の国・フランスのおいしさなのだ。

さて、フランスの朝はやはりパンから始まる。前日夜更かししても、早朝パンを買いに行く──。そんな人が多い。焼きたてのパンとともに食卓に並ぶのは、新鮮なジャムに温かなカフェオレ。簡素と言えば簡素である。だが、それがとても豊かに見えるのは、幸福な朝を運ぶすべてが、その食卓にあるからだろう。